東京高等裁判所 昭和26年(う)313号 判決
原審弁護人から所論のような弁論再開の請求のあつたこと並びに右弁護人の申請書の裏面に「弁論を再開せず」との記載があり、その下に<前田>なる捺印のあることは、記録上明白であり、右記載及び捺印は原審裁判官前田了吉において弁論の再開を適当と認めないことを表示したものであると解するを相当とする。
而して裁判所が弁護人の請求により弁論を再開するを適当と認めるときには其の旨の決定をなすべきことは刑訴法第三一三条に規定せられているけれども、右の請求があるにも拘らず裁判所が弁論の再開を適当と認めないときにも右の請求を却下する旨の正規の決定書を作成すべきことまでは同条は要求していないものと解するを相当とする。本件において原裁判所が、弁護人から弁論再開の請求があつたにも拘らず、それを適当と認めなかつたから、弁論を再開しないとの旨を表示し、弁護人においても裁判所の該意思を了知したことは前示記載、捺印及び其の余の記録に徴し明白である。而して右表示の方法は相当であり、敢てこれを不当と認むべきではない。従つて原審が弁護人からの請求があつたに拘らず弁論を再開しなかつたこと自体並びにそれについて行つた手続は共に正当であつてその間毫も所論の違法を存しない。尚原審は右弁論の再開を要せずして判決をするに十分であると思料したことは記録上明白であるから、弁護人の予期した証拠調の申請が右の弁論不再開によつて実現せられなかつたとしても、そのため原審が弁護人の証拠調の申請を不当に制限し、故意に被告人に不利益を蒙らしめたものと請うを得ない。論旨は理由がない。